ラペットウッ(漬け茶葉の和えもの)

日本語の音韻体系の中にはない、すなわちカタカナではあらわせないビルマ語の発音を無理に表記しようとして陥ってしまった誤表記の代表例として、「トゥ」や「ティン」などがあります。

ビルマ語には「トゥ」や「ティン」という発音はあります。しかし、それとは別に、「トウッ」という発音を「トゥ」、「テイン」という発音を「ティン」とする誤表記が、実はかなり見受けられます。

「和える」という意味の「トウッ」は、たとえば代表的ビルマ料理のひとつである「ラペットウッ(漬け茶葉の和えもの)」という名称の中で使われています。しかし、ネット上などではこれが「ラペットゥ」と表記されていることがかなり多く、これでは、実際の発音と全く異なってしまいます。

なぜそんなことになってしまったのでしょうか。

これについて、便宜的にローマ字表記を使用して説明します。トウッは「thoukと表記できます。語尾の「uk」は「ウ」が促音(つまる音)を伴っていることをあらわしています。したがってカタカナ表記は「ウッ」とすべきです。そうしたことから、thoukは「トウッ」という具合に2音節(3モーラ)で表記するのが、実際の発音に一番近いカタカナ表記となるのです。

ところがこれがなぜ「トゥ」と表記されてしまうケースがあるのか。これは、「thouk」を発音する際、「ト」に対して「ウ」が短く(軽く)発音されるので、その音の短さをあらわそうとして「ウ」を「ゥ」という具合に小さく表記していると思われます。しかしそのような表記は日本語の音韻体系の中にはありません。それを無理やり「トゥ」と表記したことで、2音節(トウッ)の音が1音節(トゥ)になってしまい、実際の発音とはかけ離れたカタカナ表記となってしまったのです。

「テイン」と「ティン」も同様です。「テイン」の「イ」は若干軽く発音するので、その軽さを表現しようとして小さく「ィ」としてしまった表記が「ティン」です。これをローマ字表記で比較するとその誤りがよくわかります。テインは「thein」で、ティンは「tin」で、全く別物です。ミャンマーの前大統領はテインセインですから、ティンセインでは別人になってしまいます。

カタカナ表記は、あくまでも日本語の音韻体系の範囲内におさめないと、上記のような誤表記に陥ってしまう場合がある、ということです。したがって、ミャンマー関係の記述で「タァゥンジー」、「シュエダゴォン」、「ミェィッティラー」といった、細かな音のニュアンスを懸命にあらわそうとした表記を見かけることがありますが、問題は、読み手が果たしてこの微妙な音のニュアンスをくみ取れるか、ということです。ずばり、それは無理です。よって、こうした表記は避けて、「タウンジー」、「シュエダゴン」、「メイッティラー」とすべきでしょう。

ただし残念ながら実情として、誤表記と言える「ラペットゥ」は定着しつつあります。グーグル検索でヒットした件数は、ラペットウッが約240件(2018年10月時点、12月時点では約140件、2019年10月現在で281件)に対して、ラペットゥ3000件近く(2018年10月時点、2019年5月時点で6240件、2019年10月現在で26400件に急増)にものぼります。

日本においてビルマ料理は、まだまだマイナーな料理なので、この流れを変えることはできるかもしれません。ただ一方で、このままでも良いかな、とも思っています。日本人は、ラペットウッのことをラペットゥという、ということで。これは、タイ料理を引き合いに出して言えば、「ガパオライス」と同程度の話し(※タイでガパオライスと言ってもたいてい通じない)で、むしろラペットゥが「和製ビルマ語」として定着する方が面白いかもしれませんね。

所詮カタカナでは、正確には表記できませんが、下の①と②をカタカナ表記するならば、それぞれ「ラペットウッ」と「ラペットゥ」とでは、どちらが適切でしょうか。実際の発音を聴いてみてください。

①「偽物の茶」ならば「Laphet tu」⇒発音はこちら

②「漬け茶葉」ならば「Laphet thouk」⇒発音はこちら