ミャンマー料理の中心的存在といえば、「カレー風煮込み」でしょう。この種の料理はビルマ語で「ヒン」といい、「おかず」の同義語となっています。つまり、ミャンマー料理における中心的なおかずであることをあらわしていると言っていいでしょう。

大エビを使った「バズンヒン」。エビのエキスを吸い込んだ油はミャンマー料理における美味しいおかず。

なお、ここでは「カレー」風という表現を使いましたが、「ヒン」はインドやタイのものにイメージされるほどの辛い料理ではありません。中には「カレー」という表現からややはずれるもの、また「煮込み」という表現からもはずれるものなど、いろいろあって一様ではないのです。つまり、ヒンを表現する適当な日本語がないため、ここでは便宜的に「カレー」風「煮込み」ということしました。

豚の角煮の「ウェターアチョージェッ」。スィーレーイェーレーの部類に入るこの料理の味は、日本の肉じゃがにかなり近い。

この料理のベースとなっているのは、タマネギ(トマトが加わる場合もある)。味や香りは魚醤、塩、ターメリック、ニンニク、トウガラシ、生姜などで調えます。具は豚、鶏、牛、羊などの肉や内臓、魚、エビ、卵、野菜類など。煮込みには、水と共に食用油を使います。食用油は煮込みのあいだ、材料の風味や、具が肉類ならばその脂肪分を取り込んでいきます。ミャンマー料理では、こうした「おいしさ」の詰まった油もおかず。ただ異国の料理を食べるというのは、一種の異文化体験です。例えば外国人にとってのタイ料理において、「辛さ」は、「おいしさ」であると同時に「壁」となりえます。ミャンマー料理における「油気」も、「油」と聞いただけで顔をしかめてしまう人にとっては、それと同様、あるいはそれ以上のことが言えるかもしれません。 無論そんなことをいっていたらキリがないので、話を進めます。

納豆を使った「ペーボウッヒン」。納豆は、水でぬめりを取ってから調理する。

さて、ヒンには、煮込み方で大きく分けて、ふたつの種類があります。ひとつは水分をある程度残した形での煮込み。もうひとつは水分があらかた蒸発するまで煮込んだもの。前者は「スィーレーイェーレー」、後者は「スィービャン」といい、こうした名称によりヒンを区別することがあります。一般的にスィービャンの方が人気があるようで、ミャンマー料理店にあるヒンは、多くの場合がこちらです。メニューにも、よく「スィービャン」と書いてあります。そもそもスィービャンというのは「油が出る」といった意味。その出来上がりは、水分があらかた蒸発し、「おいしい」油が表面を覆うようにじわっと染み出たような形になっています。

ただ、豚や鳥などの肉類のヒンの場合、いろいろなバリエーションがあるので、例えば単に「ウェターヒン」といった場合、それは料理名であり、同時に豚肉を使ったヒンの「総称」でもあります。よってそのには調理方法などにより、異なる味わいの料理がいろいろあります。下記は、その代表的なメニューです。 具として使われるものは、豚肉(ウェター)、牛肉(アメーダー)、羊肉(セイター)、鶏肉(チェター)、魚肉(ガー)、エビ(バズン)、鳥の卵(ウ)、豆(ペー)といったところです。そこで、豚肉の煮込みなら「ウェターヒン」、鶏肉なら「チェターヒン」、納豆なら「ペーボウッヒン」といいます。