ビルマのカセットテープ屋では、購入の際、よく試聴させてくれます。サイン・ティーサインの曲を初めて耳にしたのは、店員がすすめるテープを聴いた時。印象としては、ちょっと懐かしいGS(グループ・サウンズ)風のフォークロック調サウンドといった感じ。そして、つい口ずさみたくなるような親しみやすいメロディー。人気の一端を感じました。その歌声は、郷ひろみと城みちるとを足した感じといったところでしょうか。どんな歌声が好まれるかは、国によって違います。ビルマでは、男性ボーカルは「高く」て「甘い」声が歌声の主流。その典型とも言える彼の歌声は、大きな魅力のひとつとなっているようです。

また歌手にとっては、容姿も大切な人気の要素です。サイン・ティーサインという大スター。カセットテープのジャケットで見ると、少々意外な感じがしました。素朴な風貌。普通のおじさんといった感じ。その名声からイメージされるところと、少なからずギャップを感じました。

サイン・ティーサインの魅力とは。それを知るべく、さらに多くのビルマ人に話を聞いてみました。

「歌がいい。」

要はこういうことでした。サイン・ティーサイン自身はあまり曲をつくりません。彼の歌の大半は、大学時代からの友人、サイン・カムレイッの作品です。親しみやすいメロディーと共に人々の共感を呼ぶ詞が素晴らしいといいます。ラブソングひとつをとっても、そこにはいろいろな奥深い意味が込められており、単なるラブソングに終わっていないそうです。それをサイン・ティーサインが歌いあげる。その絶妙ともいえるコラボレーションが数々の名曲を生み出し、人々の心をつかんだのでしょう。

彼の魅力を知るべく、ビルマ人から話を聞くうちに、さらにこんなことにも気づきました。それは、サイン・ティーサインを嫌う人がいない、ということ。大袈裟ではなく、ビルマ人はみんな彼が好きなんです。

ビルマでは、歌手は思いのほか身近な存在なようです。結婚式の披露宴で有名歌手が歌うなどということは、よくあります。歌手にとっては、これも営業活動の一環です。ヤンゴンには、ストランド・ホテルという植民地時代からの老舗の高級ホテルがあります。サイン・ティーサインに初めて会ったのは、彼がたまたまそこでの結婚式で歌うことになっていた時のこと。

「一体どんな人だろう。」

会場にあらわれたサイン・ティーサイン。ビルマのトップスターというには余りに気さくな人でした。

ビルマ人は、サイン・ティーサインのことを、親しみを込めてよく「コ・ティー」と呼びます。これは「ティーさん」という意味です(「コ」はビルマ語の敬称のひとつで、主に青年から中年の男性に対して使われる)。サイン・ティーサインは、雲の上の大スターではなく、もっと身近な存在のようです。彼の気取らない人柄とその暖かい笑顔に、人々はそう感じるのでしょう。

「いい人だ。」

彼の歌声は、その人柄そのものです。サイン・ティーサインのテープを聞く度に、何だか自分の気持ちまで穏やかになったような気がしました。

サイン・ティーサインの音楽は、歌声、メロディー、歌詞、人柄が一体となって、万人の心をつかんでいるのです。

『おやすみなさい』
(エイッサッ・アナーユー・ビー)

レトロなジャケットがGOODな初期のアルバム。その中の「雨」は若々しい勢いを感じさせる代表作。

『振り返る獅子』
(チンデー・レービャン)
[ザベーウー 番号なし/1991年]

旧作の曲を新録音し、合わせてミュージック・ビデオを制作。ヒットを飾った。