ビルマ語版公式イメージソングの非売品CD。大使館関係者のみに配布。この種のものは一般ビルマ人の手には届かない。ただし曲は、レーピューが新作アルバムに収録する予定。

「髪を切れと言われたら、日本へ行かない」

今回(2003年)の来日に当たって、こんなレーピューの発言が伝わってきました。当初、本人としても、今回の話しにはやや当惑があったようです。

ビルマでは多くの歌手が、好むと好まざるに関わらず、政府のプロパガンダ・ソングを歌っています。そんな状況下で彼は、日本の担当者からではなく、政府経由で、充分な概要説明もなく今回の件を指名され、条件反射的に警戒心が働いてしまったのでしょう。イベントの具体像がつかめない彼の懸念は、このイメージソングが人々からプロパガンダ・ソングの類と思われてしまうこと。実際そんな受け止め方をする向きも一部にあったとか。また、PR用のビデオクリップを撮影する際には、自分たちのアイデアはまったく入れられず、長髪は見えないように後ろで束ねておけ、明るい色の服は着るな、ジーンズはだめ、といった細かな規制で窮屈な思いをしたそうです。

彼にとって、この話を受ける際の環境は、必ずしも良いものではなかったようです。さらに、完成した曲の権利等についての説明も当初ありませんでしたから、モチベーションが上がらなくても無理からぬところ。加えてビルマ歌謡界の状況では、ビルマ語カバーは特に工夫を凝らさないのが当たり前。むしろオリジナル曲の「摸倣」がどれだけ巧いかが重要。人気やギャラの高さはその巧拙に比例しているというのが現実です。たとえば女性歌手のティンザーモーは、真似の巧さで定評があり、それによって1曲につき70万チャットという業界最高クラスのギャラを得ています。

チッサンマウンのソロアルバム『チャウチョー・カウェー(六弦の魔術師)』はビルマ初のギターソロアルバム。

ただレーピューは業界の“常識”と一線を画す大スター。複数の歌手による「オムニバス・アルバム」という流行の企画にも参加しません。アルバム作りを大切にする彼は、自分の歌声の価値についてかなり神経を払っており、ゆえに歌の「切り売り」はしないのです。そんなこだわりを持つ彼は、ディック・リーが歌う英語版のデモテープを聴き、まず曲そのものの良さを感じたそうです。そこを原点として、ビルマ語版作りを開始。そして10カ国中のトップをきって完成。もちろん、早くても手抜きはありません。歌い方やアレンジに工夫を凝らしたその出来は、日本側スタッフの間でも大好評。原曲の持つリリカルな響きを基調としつつ、どこかビルマの壮大さを感じさせるアレンジと泣きのギターが聴かせどころとなっています。ここでは、レーピューのボーカルの素晴らしさは言うまでもありませんが、ギターを担当しているチッサンマウンの演奏も大注目。アイロンクロスでは、レーピューの人気が際立っていますが、ビルマ一の「早弾き」ギタリスト、チッサンマウンもこの国のロック界におけるスターのひとり。ギターフリークたちにとっては、まさに憧れの的といえる存在なのです。そんな彼のソロアルバム『チャウチョー・カウェー(六弦の魔術師)』は、ギタリストを目指す若者たちにとってのバイブルともなっています。