髪を切ったレーピュー=8月16日ヤンゴンでの公演にて、横飛裕子氏撮影

「髪を切れと言われたら、日本へ行かない」発言の後、レーピューが出演したヤンゴンにおける8月16日のステージ・ショーでは、何と短髪。思いきった断髪にさぞかしファンたちも驚いたことだろうと思いきや、会場では誰も髪型のことなど意に介していないようです。ひたすら彼の存在と歌に熱狂するばかり。後日、断髪について、ファンのビルマ人たちにたずねてみても、要は「ビルマではよくある」ということで片付けられてしまいました。

「軍政下で歌う長髪のロッカー」という言い方をすると、抑圧への抵抗といった反骨精神のようなものを感じてしまいますが、ことビルマの現政権下に限っては、そうした「余地」が全くありません。大前提として、この国の芸能人は翼賛体制下に組み込まれることで始めて活動が可能となります。政府は国民に対して、政治活動をしない、政府を支持して従う、民主化グループに反対する、といった恭順の意思表明を主旨とする誓約書に署名をさせています。特に民衆への影響力が大きい芸能人に対して、この誓約書の圧力は強く、まかり間違っても拒否できるものではありません。実際、女優の中で拒否した人もいましたが、それによって活動が一切できなくなってしまいました。したがって、当然レーピューも署名しているはず。確認はしていませんが、その必要はないでしょう。この国ではあまりに当然のことだからです。よって仮に彼が政府から断髪の指示を受けていたとすれば、現在の自分の一切をかなぐり捨てるつもりでなければ、拒否という選択肢はありません。一般のビルマ人ならばたいていこうした感覚は骨身にしみています。したがって今回の断髪も、ファンにとって、とりわけ驚くことでもないようです。もちろん可能性としては、気が変わりやすい彼のことですから、自分の意志で切ったということもありえます。ただ、来日決定という状況の中で、「髪を切れと言われたら日本へ行かない」と発言した上で髪を切るという行動は、憶測ですがひとつの暗示ということも考えられます。なお、今回の日本行きについて、彼は次のように語っています。

「ビルマの代表歌手として選ばれたことを大変嬉しく思っている。自分の意にそぐわないこともいろいろあったが、選んでくれた人たちなどの期待にこたえるために、頑張って協力するつもりだ。」

実のところ今回のレーピュー招聘は、プロジェクトの担当者サイドでは「彼以外に適任はいない」という程の人選でありながら、政府が許可を出さないだろうとの見通しで当初絶望視されていました。したがって、レーピューが第一候補でありながら、途中の段階までワインワインという別の男性歌手が来日することになっていたのです。この歌手も人気者ではありますが、代表としては小粒すぎます。そこで担当者の石谷氏がレーピューを再度強力にプッシュ。その後ビルマ側で具体的にどんな動きがあったのかはわかりませんが、政府がレーピューの出国を許可。ワインワインは「自分は中国系だからふさわしくない」との理由で辞退。こうしてレーピューの決定に至ったわけです。実際、出国許可と辞退のどちらが先かはわかりませんが、いずれにせよ、レーピューを含めアイロンクロスのメンバー全員が非ビルマ民族なので、辞退理由の「中国系」は真意ではないでしょう。