頻繁に見かけるムスリムの存在

「786」。ヤンゴンの繁華街で、店の看板を何気なく見ながら歩いていると、こんな数字が何度となく目に入ってきます。番地名か?店番号か? ちょっと気になって注意してみると、この数字が店名と共に記されている看板は、そこらじゅうにあります。特に飲食店に多いようで、たまたま入った喫茶店も「786」の店でした。そこで店員にこの数字について尋ねてみたところ、これはムスリム経営の店だということをあらわすものとのこと。ビルマのムスリム(イスラム教徒)にとって、この数字は特別な意味を持った神聖なものなのだそうです。

そんな聖なる数字を掲げた店は、とりわけムスリム地区に集中しているというわけではなく、たいていどこにでもあると言っても過言ではありません。その数の多さは、この国のムスリム人口が全体のわずか4%であることに意外さを感じさせるほどです。

「786」の聖なる意味
屋台のパンデー(中国系ムスリム)が経営する中華料理店の看板に見られる「786」。アラビア文字による表記(٧٨٦)も見られる=98年3月ヤンゴンにて。

イスラム教の聖典である『コーラン』は、その各章が「ビスミッ=ラーヒッ=ラフマーニッ=ラヒーム」という言葉で始まります。このアラビア語を邦訳すると、「仁慈あまねく慈悲深き、アッラーの御名において」となるそうです。アッラーを唯一神とするムスリムにとって、この言葉は、何か事を起こす際に唱える大変重要な祈りの一節なのです。

ムスリムの家には、この言葉が必ずどこかに掲示されています。その原典となっている聖コーランは、内容を理解するだけのものではなく、声に出して読むべきものです。もちろんそれはアラビア語によってなされます。したがって非アラブ圏の信者にとって、イスラム教の信仰にはアラビア語の学習が欠かせません。そして「ビスミッ=ラーヒッ・・・」もアラビア文字で書かれたものを掲示するのです。しかし、実際に非アラブ圏の信者すべてがアラビア語を解しているわけではありません。むしろ一般信者のアラビア語力は、コーランの丸暗記にとどまり(それ自体が大変なことではあるのだが・・・)、言語自体の理解にまでは至っていないと言っていいでしょう。さらには、「ビスミッ=ラーヒッ・・・」のアラビア語表記すら読めない者もいるのです。