「昨日、知り合ったコ・ソーナインっていう人、とってもおかしいの...」
「そうなの? 私の知り合いのコ・テインヂョーにそっくりね」

すでに話しの展開はおわかりかと思いますが、実はこのコ・ソーナインとコ・テインヂョーは同一人物。そのことに気が付かないで交わされている会話の一例です。これはフィクションですが、ミャンマーでは実際にありえること。なぜなら、ミャンマー人は通常複数の名前を持っているからです。もちろんそうでない人もいますが、人によっては5つも6つも持っています。

まず最初は誕生のときに与えられる名前。その曜日に因んだ文字が頭文字となるようにするのがミャンマーの習慣(下記参照)。たいていこれが正式の名前(IDカードに記載される登録上の名前)となりますから、そこからその人の生まれた曜日がわかります。そしてそのあと家族や隣近所の親しい人たちだけが使う短い名前(エイン・ナメー)がつけられ、学校へ通う段階になると、またそこでの名前(チャウン・ナメー)がつけられます。こうしていくつかの名前が一通り与えられたあと、さらにそのあと自分で新たな名前をつけることもあります。そしてそれを正式名として登録しなおす人もいるそうです。ただその手続きは結構厄介ですから、気軽にできることではありません。以上のような状況はもちろん人によって異なります。よって生涯、誕生時に与えられた名前だけで通す人もいれば、一方ではさらに宗教名まで加わる人もいます。

これほど多くの名前を持つことのできるミャンマー人。いったいどれを本当の名前として認識しているのでしょうか。実際、どれもすべて自分の名前、ということなのでしょうが、当然そこには何らかの差異があるでしょう。日本人の場合で言えば、姓と名との違いに近い感覚があるのかもしれません。もちろんこのあたりは、個人によって異なるアイデンティティの問題でもありますから、事は複雑で、一概に言えることではありません。つまりこれ以上言及することは力量的に不可能な作業となりますから、深入りせずこのあたりで話しをとどめておきます。

ただ人によっては、幼少の頃に家や学校などで呼ばれる名前の違いに疑問を抱くこともあるようです。複数の名前を持つことがこの国の習慣として普通であり、物心ついたときには既にそうなっていたとしても、そのことへの疑問もまた自然な感情。しかし長じるにつれ、次第に気にしなくなる。こうしてたいていの人たちの認識は、IDカードの正式名が第1の名前、となっていくようです。

■曜日に因んだ名前■

ミャンマーの曜日は7つではなく、8つの種類があります。それは水曜日を午前と午後とで分けているからです。ビルマ文字の基本的な字母は33あり、それらすべてが、8つの曜日のいずれかに因んだ文字となっています。ミャンマーでは多くの場合、子供の名前は、生まれた曜日をあらわす文字を頭文字にするというわけです。以下、そのおおまかなところを例示します。

曜日頭文字となるビルマ文字名前の具体例
日曜主にア行の字母「アウン」、「エー」、「ウー」など
月曜カ行やガ行などの字母「チョー」、「キン」、「カイン」など
※「チョー」がなぜ「カ行」なのかはこちらを参照
火曜サ行、ザ行、ニャ行などの字母「ソー」、「ニィ」、「ゼー」など
水曜の午前ラ行、ワ行、ハ行などの字母「リン」、「ルイン」、「ウィン」など
水曜の午後ヤ行やタ行の字母「ヤン」、「イェー」など
木曜パ行、バ行、マ行などの字母「ボー」、「メー」、「ピョー」など
金曜ハ行やタ行の字母「へイン」、「トゥー」、「テー」など
土曜タ行、ダ行、ナ行などの字母「ナイン」、「ティン」、「ドゥエー」など

ハ行やタ行などが複数の曜日にまたがって登場するのは、発音は同じでも字母が異なっている、あるいはカタカナでは発音の違いを表記できない「有気音」や「歯間音」などであることなどによります。(ビルマ語の発音体系は、日本語よりもはるかに複雑であり、カタカナでは発音の違いを表記できない⇒カタカナ表記についてはこちらを参照)

(例) 無気音の「タ」⇒、有気音の「タ」⇒、歯間音の「タ」⇒