ローマ字は一種の世界文字といえますが、国際的な表記方法はありません。言語の発音は千差万別なので、真に国際的な表記法を作ることは不可能でしょう。ローマ字と特殊記号による国際音声記号にしても、すべての言語に用いることができるわけではありません。したがってローマ字表記については、この文字を国字としている欧米諸国やその他の国々はもちろんのこと、固有の文字を持っている国においても、各国独自のものがあります。日本の場合なら内閣告示の日本式(訓令式)でしょう。ビルマの場合、ローマ字の表記はかなり一貫性に欠けますが、一定のビルマ式といえる独自性を見出すことができます。その主なところは以下の通りです。
①[HT]
日本語なら「タ」行で一括される発音も、ビルマ語には無気音、有気音、歯間音の3種類があります。それぞれが[t]、[ht]、[th]と表記されることが多いようです。
(例)Htin→ティン
②[KY]
無気音の子音[k]音と[y]音の複合文字は、発音上は「チャ」行でも表記は「ky」となります。(なお、有気音の[kh]と[y]音の複合文字は[ch]と表記されます。)
(例)Kyaw→チョー
③[・・・K],[・・・T]
【末子音が声門閉鎖音(「ッ」音)】
[k]音、[s]音、[t]音、[p]音に相当するビルマ文字を使って表記される声門閉鎖音は、実際それらの文字が末子音として発音されるわけではありません。また、ビルマ文字とローマ字表記が必ずしもリンクしているわけではないようです。
(例)Tachileik→タチレイッ(シャン州にある町の名称)
【撥音[n]で終わる音節】
この音節が第1声調の場合には[・・・T]と表記されることが多いようです。
(例)Thant→タン(人名)
※中国の国連加盟を実現した元国連事務総長のウ・タントのローマ字表記は「U Thant」。この場合の[t]は、撥音を末子音とする音節が第1声調であることを表わす「発音しない記号」。