たまたま立ち寄った「マヌエ」という店。飲食店を意味するビルマ語にはいろいろな表現があり、食事と飲み物を提供する料理店ならそのままの意味で「飲食店(サー・タウッ・サイン)」。惣菜屋のような小さな店で飲み物を扱っていない場合は「飯屋(タミン・ザイン)」。このマヌエは、まさに飯屋。仲の良いご夫婦を中心とする家族経営で、とても感じの良い方々だったので住所交換をして、帰国後やや間をおいて写真を数枚送った。
しばらくしてこの店のことも忘れかけた頃、その奥さんから手紙が届いた。そこには、すぐに返事を書けなかったことのお詫びに続けてその理由が。彼女は日本から送られてきた手紙に思わず涙してしまったそうだ。夫の写真が同封されていたからだ。
ご主人は、実はこの写真の後しばらく経って、病気で亡くなったとのこと。悲しみに暮れている中で日本から送られてきた手紙。その中には亡き夫とふたりで写っている写真が。生前夫婦ふたりで撮った写真は1枚もなく、ゆえに夫と過ごした何気ない日常が目の前にあらわれて、思いがけない夫との再会に、もう涙が止まらなかったそうだ。
近年、ミャンマーではスマホが普及。写真などはすっかり手軽に取れるようになった今と当時は大違い。たまたま出会った旅先の縁で撮った写真。「何物にも代えがたい宝ものになりました」とまで手紙の中で言ってくださった店のおかみさん。便利さのない時代ゆえの思い入れ。忘れられぬ旅となった。