来日ステージで歌われた「伝説の女神」は、実のところ彼らのオリジナルではありません。これは、ビルマ・ポップス界では先輩格にあたるトゥーエインティンという男性人気歌手が1990年にリリースしたヒット曲。したがってアイロンクロスの演奏はそのリバイバルということになります。こうしたリバイバル曲のことをビルマ語で「ピャンソーテー」といい、外国のヒット曲をビルマ語でカバーした「コピー曲」と共に、現在におけるビルマ・ポップスの主流をなしています。ビルマではこの「ピャンソーテー」が売れるか否かは、如何にして原曲に似せるかがポイントになると言います。したがって歌手たちが目指すのは、オリジナルの歌声をできるだけ完璧に「コピー」すること。そうした「常識」の中でリバイバルされた「伝説の女神」。その出来は、常識破りとも言えるものでした。甘い曲調の多いビルマ・ポップスの中で、この原曲自体が個性のあるものでしたが、ここではその魅力をさらに際立たせたアレンジがほどこされました。荘厳な雰囲気を漂わせるスローな展開。その中で炸裂する強烈なビート。その仕上がりは、レーピュー自身のオリジナル曲と感じさせるほど。しかし、その素晴らしさの原点は、原曲自体にあることを彼は指摘しています。
来日ステージにあたり、日本側スタッフからのリクエストは次の2点でした。コピー曲ではなくビルマ的スタイルのオリジナル曲であること、そしてこの国の自然を表現していること。そこで彼らが選んだのが「伝説の女神」。この曲にはかつて栄えたピュー王朝時代のメロディーを取り入れた部分があり、伝統的スタイルが融合したユニークなポップスでもありました。それを生かしつつ、現代的ロック・スタイルのアレンジを加えたのが、アイロンクロス版「伝説の女神」だったのです。