「マタタ」は、「車両監視委員会」の略称で、路線運輸行政局の下部組織です。その運営は主に退役軍人や現職を退いた官僚などによって行われています。市内バスの運行に関わる最終的な決定権は路線運輸行政局にありますが、その統轄実務、すなわち「ライン(営業運行ルート)」についての設置・運営・維持・管理などに伴う実務すべては、このマタタが行います。例えば、バスの営業資格を持つ者が営業用として登録済みの車両を市内バスとして運行させることを希望した場合、その車両はどこかのラインに参入させなければなりません。ヤンゴン市内の各ラインは開設順に番号が付けられており、その統轄機関は、31、36、45あたりならば「マタタ」、100、129、143といった三桁の番号ならば「タンミャンドゥー」となっています。8、13、28といった若い番号は国営バスのラインなので、参入先はこれ以外のところということになります。例えば45番のラインを希望する場合の申請先はマタタです。それを受けて、マタタは決定権を持つ当局に45番ラインにおける運行車両の追加を申請します。そして許可が得られれば、ラインへの参入は果たされたことになり、その車両は「ラインガー」となります。ただ、こうした手続きでの「新規」参入は、実際のところ容易ではありません。参入は車両自体に付与されるので、既に参入済みのラインガーをそのままオーナーから譲り受けるというのが、結局のところ最も現実的な方法のようです。

左の小屋がバスの監視を行っているマタタ。規定違反や違法運賃などの取締りが主な目的。

バスのオーナーにとって、ライン参入というのは、その統轄機関の配下に入ることを意味します。したがって入会金や会費などを支払わねばなりません。そして、それによって配下のオーナーたちは規定の運行に必要な量の燃料配給を政府価格で受けることができます。こうした配給は「MPPE(Myanmar Petroleum Products Enterprise)」という国営の給油所で行われています。価格はガソリン、ディーゼル共に1ガロン(約4.5リットル)が180チャット(1チャット=約0.2円)程度。同一ラインのバスであっても、使用される車両の種類(大きさ)によって配給量が異なります。例えば、スーレー~インセインという48番ラインの場合、一往復につき、エアコンバスで2.5ガロンほど、ハイラックスからの改造バスならば1.5ガロンほどが政府価格で配給されます。

ビルマにおける正規の給油というのは、こうした安価な政府価格による配給によってなされます。その対象となるのは車の所有者、運送業者、軍関係者などで、それぞれに応じた規定の量が毎月配給されます。ただ、このような配給量は実際の使用量と異なる場合があるため、足りなかったり、余ったり、といった際の現実的な“調整”は民間を通じて行われ、それによって国内における活動全体の円滑化がはかられます。ただし価格の方は、需要と供給に基づく市場価格となるため、配給という性質によって安く押さえられていた政府価格から流通の第1段階で数倍になります。例えば軍関係者から“調整”がかかった場合、中間業者にはドラム1缶(54ガロン)が35,000~39,000チャットくらいの価格で卸されます(以前はガソリンよりもディーゼルの方が高かったが、現在は共に同じくらいの価格)。こうして仕入れた中間業者の方は、若干の利益(1ガロンにつき50~80チャット程度)を上乗せし、1ガロンあたり、ヤンゴンでは700チャット、地方ならば800チャットくらいの価格で小売りをします。なお、こうした形での燃料流通は、現在のところ公認には至っておりません。