「チョー義務終了」の証明書は、ダッシュボードの上などに置き、常に携帯する。

ビルマでは、国民の「奉仕活動」がさまざまな形で行なわれています。この奉仕を大別すると、「功徳を積むためのもの」と、「単に義務的なもの」といった具合になります。時折見かける地域住民による道路の修復作業などは、たいていの場合、功徳のために行なう労働で、ビルマ語では「ロウッアー・アルー(労働による寄付)」といいます。住民にとってこれは、地域社会におけるひとつの役割分担的なものではありますが、そこに物理的な強制力はありません。当地で尊敬されている名士や僧侶などの声かけによって行なわれるのです。奉仕が功徳につながるという仏教の教えが常日頃より説かれ、よく浸透しているため、こうした一種の自主的労働がしばしば行なわれます。

一方、単に義務的な労働のことを、ビルマ語で「ロウッアー・ぺー(勤労奉仕)」といいます。こちらの方は、政府が強制力を伴って実施するものです。これについては、一般的に「チョー」「ポーター」の2種類に分けられ、現政府の国家建設にとって大きな役割を果たしています。

「ポーター」は従軍を伴う運搬作業を労働内容とするもので、たいてい少数民族の州や国境地帯で実施されます。このように対象地域が比較的限定されているポーターに対して、「チョー」は全国的に広く実施され、その労働内容もさまざまです。たとえば、社会資本建設の際、建設国債の発行といった形での費用捻出方法を持たないビルマでは、受益者となりうる周辺住民に労働力の提供がしばしば義務付けられます。ただ、都合により「勤労奉仕」に従事できない住民は、免除金を支払って「金銭奉仕」という形をとることもできます。

日本で出版されているビルマ関連の書物には、こうした労働の部分だけを取り上げて「実像」云々を説いているもの(『ミャンマーの実像』山口洋一著)もあるようです。しかしこれでは、いろいろな形で実施されているチョーについての言及としてはいかにも雑で稚拙で偏った内容と言わざるを得ないでしょう。

たとえば、ヤンゴン管区においては、軍や政府の関連で行なわれる物資運搬や引越し作業が、チョーとして実施されています。その対象は、営業用車両の所有者のうち、運送を請負うことで収入を得ている者。つまり運送業者ですが、それ以外の業者であっても、何らかの形で運送の請負を行なっている場合には、同様に義務が課せられます。負担の度合いは、1カ月に2回。規定のガソリン(ディーゼル)配給は、これを果たすことで受けられます。したがって、対象者に交付される「チョー義務終了証明」はたいへん重要な代物。これは、監督業務を行なう管区当局の運送局チョー課から、指定の台帳への検印という形で受けます。

このようにヤンゴンでは営業運送を行なう車両へのチョーは定期的に実施されますが、地方においては、たいていの場合、必要に応じた形がとられます。

その業務内容は、社会資本建設に関わる運搬作業のほか、軍需品やその他さまざまな物資運搬など。実施に際して必要な車両の確保については、担当官が貨物トラックの所有者宅を訪れてその旨を告げるといった形で行なわれることもありますが、通常、町や村の境にある検問所などでしかるべき手段が講じられます。つまり走行中の貨物トラックを停車させ、その場で徴用するのです。

ただ、チョーというのは「奉仕活動」ですから、何らかの形で既に「奉仕済み」であることが証明できれば、その対象外となります。たとえば、先に述べたMCDCの生向会へ一種の寄付金を支払うことで取得した「関連車両証明書」は、こうした場合に有効となります。ただし、MCDCからの証明書による奉仕済みの効力は、マンダレー市内に限定されているため、市外での徴用については免れることができません。したがって、できるだけ確実に免除を受けるためには、より広域で効力のある証明書が必要となります。たとえば、諜報局、警察、軍家族といった機関の生向会から取得した証明書には、そうした効力があります。つまり検問所などにおける徴用は、基本的にこの種の証明書を携帯していない車両を対象としているということです。

もっとも、これも時として1万~1万5千チャットほどの免除金によって金銭奉仕の形をとることが可能な場合もあります。要するにこのあたりの対応は一律ではなく、チョーの重要性や緊急性あるいは担当者などによると言っていいでしょう。したがって実際の場面では、トラック運転手に対して免除金に加えてさらに代車の用意を求められることもあれば、いかに交渉しても免除自体が不可能ということもあります。

なお、こうした徴用によるチョー義務を実際に果たした場合、その車両に対しては、ヤンゴン管区での場合と同様に「チョー義務終了」の証明書が発行されます。この証明書の有効期間は、業務に要した走行距離が片道150マイル以下の場合は2ケ月間、この距離を超える場合には6ヶ月間。これを携帯すれば、この期間内のチョー免除が保証されます。ただ、その効力については地域的な限定があるため、有効期間内であっても、対象地域外における走行中については、これをもって徴用を免れることはできません。