インドシナという半島名によってしばしば象徴される東南アジア。この地域の各国は、それぞれの度合いで中国とインドからの影響を受けています。
ミャンマーにおける「食」についていえば、この国ではかなり一般的に中華料理とインド料理を食べることができます。そして、それらはミャンマー風のアレンジによってミャンマー人の食生活の中に溶け込み、ミャンマー風中華料理、ミャンマー風インド料理と言えるようなものが数多くあります。このように外国から入ってきて土着化したミャンマーの料理の中には、もはや国民食ともいえるような存在の料理もあります。
そのような「ミャンマー料理とは」といった話をするためには、言葉の定義が必要です。
ミャンマーは多民族国家です。したがって、「ミャンマー人」には、ミャンマーという国家の「国民」と、その中の主要な「民族」であるミャンマー民族と、2つの意味があります。「ビルマ」というもう一つの名称は、日本では旧称のように言われていますが、本来はそうではなく、「ミャンマー」と同様に国家と民族の両方を意味することばです。両者は本来、文語と口語の違いがあるだけですが、近年、便宜的にミャンマーといったら国家、ビルマといったら民族といった具合に使い分けることがあります。あくまでも便宜的はありますが、それに沿っていえば、ここで紹介するミャンマー料理というのは、「ビルマ料理」ということになります。
そうした点から考えると、本国ミャンマーにあるミャンマー料理店と日本(外国)にあるミャンマー料理店は、料理店として異なる存在です。
前者は別の民族の料理は扱っていません。それに対して後者は、ミャンマーの料理を幅広く扱っている店が少なくありません。これは、日本を引き合いにして簡単に言えば、「日本料理(和食)」と「日本の料理」の違いと同じことです。
たとえば日本のカレーライスは我が国の国民食と言える存在ですが、日本料理とは言えません。ミャンマーでこれに匹敵するのがダンバウ(ダンバウッ)です。もとはインドのビリヤニですが、すっかり土着化してミャンマー風の似て非なる料理となっています。モヒンガーという麺料理と並んでかの国の国民食といえるものの、ミャンマー料理とはみなされていません。
日本料理が「和食」といわれ、日本の料理における伝統的な民族料理であるのと同様に、ミャンマー料理はいわば「ビルマ料理」と言うべき存在で、かの国における様々な料理の中で民族料理としての地位にあるということです。
ですから、ミャンマーにあるミャンマー料理店は「ビルマ料理店」であり、日本(外国)にある店は、この国のいろいろな料理が食べられる「ミャンマー料理店」ということになります。
ということで、ここで取り上げるのは「ビルマ料理」です。
日本で人気のカレーライス、ラーメン、焼肉などが「日本料理(和食)」でないのと同様に、ミャンマーでも上述のダンバウをはじめ、マーラーシャンコー、シャンカウスエ、チェーオー、ウェッタードウットーといった広く好まれている料理は「ビルマ料理」ではありません。ビルマ料理というのは、その範疇について必ずしも明確に線引きができないものの、ある程度特定できます。それについて、これから「ビルマ料理」と表現していきたいところなのですが、今やこの民族料理は、本国ではビルマ料理ではなく「ミャンマー料理」と表現されています。したがってそれにならい、ビルマ料理は「ミャンマー料理」、そして紛らわしいのですが、ミャンマー料理(ビルマ料理)以外を「ミャンマーの料理」あるいは「ミャンマー風料理」と表現します。
そこで「ミャンマー料理」の定義ですが、これには、中国やインド由来のものが少なくありません。その線引きをどうするか。ここは、御協力を頂いたミャンマーの方々の認識、学術的裏付けのない私の経験と乏しい知識に基づく主観によって、ざっくりと「ミャンマー料理」を以下のように捉えてみました。
- ミャンマーにおける「ミャンマー料理店」のメニューにあるようなもの
- たいていのミャンマー人がミャンマー料理と認めるようなもの
ということで、ミャンマー料理にはいろいろなものがありますが、主なところを大まかに列挙すると以下のとおりになります。
- 煮込み
- 和えもの
- 麺類
- 揚げもの
- 炒めもの
- スープ
では、こういった料理について、その具体的な内容の大まかなところを次に記します。(2024年4月5日追記・改定)