ミャンマー料理の中には、もともとは中国やインドあたりの料理で、この地に根付いて土着化し、ミャンマー風に変化した料理が少なくありません。それこそが食文化というものです。そうした料理の中には、外来と認識されながらも、国民食と言える存在となっているようなものもあります。インドのビリヤニをルーツとする「ダンバウ(ダンバウッ)ဒံပေါက်」はその代表格。また、やや料理とは言い難い存在ではありますが「バーラチャウン ဘာလချောင်」といわれるふりかけは、ミャンマー料理には欠かせないほどの存在です。
■ダンバウ ဒံပေါက်
カラフルな彩りのご飯が特徴の「ダンバウ(ダンバウッ)」。インドでは「ビリヤニ」といわれている一種の炊き込みご飯がミャンマーに定着した料理です。
ビリヤニしてもダンバウにしても、店によって味が違いがありますが、概して、ダンバウの方が、旨味に濃厚さがあり、こってり感があると言えるでしょう。またカラフルさにおいては、ダンバウの赤、橙、白という3色の見栄えは、ビリヤニ以上かもしれません。
ダンバウは、通常、専門店の「ダンバウッ・サイン ဒံပေါက်ဆိုင်」で食べられます。インド料理店でも、店によっては食べられます。ただ、インド料理店の場合は、それがダンバウなのかビリヤニなのかは、店によると言っていいでしょう。
さて、このダンバウは外来の料理ながら、とにかくミャンマーで最も人気のある料理のひとつです。結婚式や得度式といった大切な行事の場では、必ずと言っていいほど出され、来客が必ず喜ぶ定番中の定番です。こうしたことから、ダンバウは国民食の地位を得ていると言っても過言ではありません
炊き込みの際、味付けを兼ねて使われる具は肉類や豆類など。肉は鶏、牛、羊といったところです。特に店では鶏肉が最も一般的で、その部位には「モモ肉」と「ムネ肉」があり、指定して注文することができます。ちなみにミャンマー人の好みは「ムネ肉」です。
3色の炊き込んだご飯の上にこの肉を具としてのせ、濃厚なたれをほんの少しだけ添えて盛り付けて出来上がり。肉が鶏なら「チェッター・ダンバウ ကြက်သားဒံပေါက်」、羊なら「セイッター・ダンバウ ဆိတ်သားဒံပေါက်」、牛なら「アメーダー・ダンバウ အမဲသားဒံပေါက်」といいます。さらに「チェッター・ダンバウ」の場合、モモ肉なら「パウンダー ပေါင်သား」、ムネ肉なら「インボウンダー ရင်ပုံသား」と言って指定します。何も言わなければ、たずねられるか店が適当に判断します。
肉なしメニューもあり、乾しブドウやカシューナッツなどを具として炊き込んだ「ティティー・ダンバウッ သစ်သီးဒံပေါက် 」、具なしの「タタルッ・ダンバウッ သတ်သတ်လွတ်ဒံပေါက်」といったあたりが主なところです。ちなみに「タタルッ」というのは「肉なし」という意味です。仏教信仰が盛んなミャンマーでは、その教えにより、仏教徒には精進日というものがあります。また願かけをする際には、ブッダに何か誓いを立てます。そのような精進や誓いとして、例えば、一日中または午後からは肉を食べないとする仏教徒は少なくありません。そうしたことが日常的に行われるため、たいていの飲食店には、肉を使う料理の場合、その肉なし版があります。したがって、肉なしを注文したい場合、それが料理として成立するようならば、料理名と合わせて「タタルッ」と言えばいいのです。(※ダンバウを作る)
■バーラチャウン ဘာလချောင်
ミャンマー料理の多くはたいてい家庭料理でもあります。中でも見逃せないのが「ふりかけ」です。「料理」というほどではないかもしれませんが、手間をかけて作ったふりかけのおいしさはなかなかのもの。ミャンマーで人気の食べ物です。
ふりかけにはいろいろな種類がありますが、総称としては「バーラチャウン」といわれることが多いようです。この名称はインドの言語です。ルーツはインドでも、味付けはガンピャーエー(魚醤) ငန်ပြာရည်やガピ(エビなど魚介類のペースト) ငါးပိなどを使ったミャンマー風。ほぼミャンマーの料理として存在しており、「ガピ・ヂョー ငါးပိကြော်」または「ガンピャーエー・ヂョー ငန်ပြာရည်ကြော်」と言われることもあります。
その材料は牛肉、鶏肉、エビ、魚、豆類などで、バリエーションはいろいろです。牛肉なら「アメーダー・アサッチョー အမဲသားအစပ်ကြော်」、魚肉なら「ガチャウタウン・ヂョー ငါးခြောက်ထောင်းကြော်」などといったりします。また、「バーラチャウン・ヂョー」といえばエビのふりかけをさすことが多いようです。納豆を使ったものにはいろいろな種類がありますが、一般的には「ペーボウッ・バーラチャウン・ヂョー ပဲပုပ်ဘာလချောင်ကြော်」といいます。 ふりかけは、ミャンマー料理店でのサービスとして食べられることがあります。ただ、飲食店においてはその程度なので、小売店(「ラペッ・アチョーゾウン・ザイン လက်ဖက်အကြော်စုံဆိုင်」など)あたりで買ってきて、ホカホカのご飯にふりかけて食べるのがいいでしょう。日本人の味覚にあったおいしさがあります。