ナンバッチン(発酵おから)を使った豚モツの煮込みが絶品!
観光地バガンはミャンマー料理店が多く、競争が激しいだけ
料理好きの父親の影響を受けて4年生の時から調理を始めたと
ミャンマー料理の「ヒン(カレー風煮込み)」は美味しいけどちょっと重い、と
この店の調理方式は∗アニャーに残る伝統的手法。ヒンを作る際、肉をガピ(発酵エビのペースト)に漬け込み、調味料として魚醤は使いません。そして油。これはミャンマー料理の要です。ミャンマー料理を美味しくないと思ってしまった外国人の大半は、運悪く、質の悪い油を使っている店には当たってしまったと言っていいでしょう。そんな大切な油は、この店では自家製のペーズィー(ピーナッツ油)を使っています。
∗アニャー=上ビルマ地方。かつての王都マンダレーを中心とするミャンマー文化の中心地。 |
ミャンマー料理は、ヤンゴンよりマンダレーが美味しい。これはミャンマーの常識です。その大きな要因のひとつが油。ヤンゴンで一般的なサーオウンズィー(パーム油)ではなく、ペーズィー(ピーナッツ油)が使われているのです。そして、さらにこの店のペーズィーは、自前の工場で生産された搾りたて。美味しくないわけがありません。
さらにその絞りかすは、「ナンバッチン」というアニャー特産の発酵食品となります。「ナン」はゴマ、「パッ」は粕、「チン」は酸っぱい、という意味。つまり「発酵ゴマおから」です。ただ実際の原料はゴマではなくピーナッツ。なぜ実体と名称が異なってしまったのでしょうか。
ミャンマーのゴマ油は黒ゴマで生産されています。しかし以前は白ゴマも使用されていたそうです。元々ナンバッチンは、その白ゴマの搾りかすを原料として作られていました。しかしアジア太平洋戦争が終わって1948年にミャンマーが独立した頃から、ゴマ油の原料として白ゴマが使われなくなると、ナンバッチンの原料としてピーナッツ油の搾りかすが代用されるようになりました。黒ゴマの搾りかすが使われなかったのは、苦みがあっておいしくなかったからです。こうしてナンバッチンは原料がピーナッツに変わりましたが、その名称は白ゴマが原料だった名残をとどめて現在に至っているというわけです。
そのようなアニャー名産のナンバッチンは、ミャンマー料理店ではサービスのアヤンヒン(サイドディッシュ)としてしばしば出されます。この店では和えものにした「ナンバッチン・トウッ」が食べられますが、それだけでなく、さらにナンバッチンを使ったヒン(カレー風煮込み)が、自慢の創作料理として人気メニューとなっており、それがとにかく絶品なのです。使われる肉は豚のモツ。丁寧に処理されたモツをナンバッチンを使って調理することで、モツ特有の癖が中和され、素晴らしい旨味のある一品に仕上がっています。この料理を「ウェウー・ナンバッチン」といいます。
このウェウー・ナンバッチン(豚モツのヒン)だけでなく、他の料理もすべて丁寧に調理されており、つい食べすぎてしまいますが、驚くほど胃もたれしないのです。評判を聞きつけてわざわざこの店に食べに来たミャンマー人観光客は「この店がヤンゴンに進出したら、客が押し寄せて大変なことになる」と思わずつぶやいていました。
料理と店の経営について熱く語る女将イーイーアウンさんのこだわりの料理は、バガンでナンバーワンと言っても過言ではないでしょう。