■ヤンゴンにおけるシャン料理店
多民族国家ミャンマーの少数民族は135とされており、シャン民族はその内の主要な7少数民族のひとつです。そしてその料理は、ミャンマーで最もメジャーな少数民族料理です。
シャン料理は、今やヤンゴンにおいて、立派な高級レストランから街角の屋台まで、いろいろなところで本格的な味を楽しめるようになってきています。しかし20年近く前の2000年代以前あたりまでは、シャン料理店自体、存在はするものの数は少なく、ちょっと珍しい料理といった感じでした。既に麺料理のシャンカウスエやトーフヂョーなどのようにミャンマー人の食生活に定着していた軽食もありましたが、それとてシャンカウスエついて言えば、巷の店でミャンマー人が作るものは、シャン料理とは言えないレベル。1970年代からヤンゴンの繁華街に「999(※地図)」という本場のシャンカウスエ店が既にありましたが、こういう店は例外的で、ヤンゴンではいわばまがいものが一般的でした。しかし2005年あたりから、本場に近い味を提供する店が増えてきました。
シャン州では、シャンカウスエは、屋台などでを手軽に食べることができます。そんなシャン州出身の人たちが、ヤンゴンで本場の味を提供し始めたのです。詳細は後述しますが、シャンカウスエの麺には、ミャンマー人が好むインディカ米が原料の「サンブエ麺」と、シャン人が好むシャン米が原料の「サンズィー麺」とがあります。当時、ヤンゴンで食べられるのはサンブエ麺だけで、サンズィー麺はありませんでした。しかしこの頃から、サンズィー麺を使った本場ならではのシャンカウスエがヤンゴンにも登場し始めたのです。その当時から現在に至るまで、ミャンマーゴンイー通りでずっと営業している屋台の「ドーシャンレー(※地図)」はそうした先駆的シャンカウスエ屋台です。こうして本場の味がヤンゴンでも手軽に味わえるようになってくると、麺類以外のシャン料理を提供する店も徐々に増えてきます。
本場のシャン州では、シャンカウスエのように手軽に食べる麺類は屋台などのような小規模な軽食店で、炒めものやご飯ものといったしっかりとした食事はそれなりの料理店で、といった住み分けがなされています。このあたりはミャンマー料理も同様で、ヤンゴンでは、モヒンガーとヒン(カレー風煮込み)とが同時に食べられる店は一般的ではありません(つまり「feel」のようなチェーン店は例外的存在)。したがって、ヤンゴンでも以前からある「メイチンシャン」(2016年頃に閉店)のような老舗のシャン料理店ではシャンカウスエを扱っていません。
ヤンゴンで本格的なシャンカウスエが普及し、シャン料理というものに人気が出てきたことで、比較的規模の大きなシャンカウスエ店が登場。そうした店では麺類以外のメニューも揃え、多くの種類が食べられる新タイプの総合的シャン料理店となっていきます。2013年6月に開業した「シャンヨーヤー(※地図)」は、今やその代表格。こうして現在のヤンゴンにおけるシャン料理店シーンが形成されていきました。
■シャン料理とは
ミャンマー料理もシャン料理も、どちらも基本は家庭料理で、共に中国料理などの影響を大きく受けています。そしてシャン料理の中には、見ただけでは中華料理かミャンマー料理か区別できないものがあります。シャン料理の特徴としては、ベースとなる調味料として納豆を使い、油や魚醤はあまり使わないという点を挙げることができます。例えば「ウェッター・ミィッチン(豚肉と発酵タケノコのカレー風煮込)」というミャンマー料理がありますが、シャン料理店でも同様の料理をしばしば見かけます。ミャンマー料理?と思いきや、店の人いわく「これはシャン料理、調味料が違う」とのこと。シャン料理は、独自の蒸しものや発酵食品から中国料理やミャンマー料理に近いものまで、実にさまざまです。シャン料理店で見かけるのは、その一部に過ぎません。毎年日本のシャン人コミュニティで行われている食事会のイベントでは、いろいろな家庭料理が持ち寄られます。その種類の豊富さに、シャン料理は、その定義を含め、未知の可能性を秘めた料理であることを実感させられます。
さて、シャン州は一般的に3つの地域に分類されます。よってシャン料理についても、この地域ごとで以下のように分類することができます。
・北部シャン料理(ラーショーを中心とする地域)
・東部シャン料理(チャイントンを中心とする地域)
・南部シャン料理(タウンヂーを中心とする地域)
ヤンゴンのシャン料理店は、比較的大きな店ならばたいてい全地域の料理を扱っていますが、小規模な店の場合はいずれかの地域の専門店ということもあります。傾向としては、北部シャンや南部シャン料理を扱っている店が主流と言えます。文化的に隣国タイに近い東部シャン独自の料理は、ヤンゴンではほとんど見かけません。そのあたりはとりわけシャンカウスエに関して顕著で、ヤンゴンで定着している麺は、北部および南部のタイプ。製法が異なる東部のシャンカウスエの麺は、ヤンゴンではほぼ扱われていません。ちょっと興味深いのは、逆に日本のミャンマー料理店やシャン料理店では、本場シャン州の北部や南部の麺は全く扱われていないという点。日本の店では、南部のタイプに近い麺しか食べられません。シャンカウスエと言ってもいろいろな種類があるのです。
傾向としては、北部シャンや南部シャン料理を扱っている店が主流と言えます。文化的に隣国タイに近い東部シャン独自の料理は、ヤンゴンではめったに見かけません。そのあたりはとりわけシャンカウスエに関して顕著で、ヤンゴンで定着している麺は、北部および南部のタイプ。製法が異なる東部のシャンカウスエの麺は、ヤンゴンではほとんど扱われていません。
このページは、そのような多様なシャン料理について、少し触れるコーナーです。