仕込みを早朝から始めた場合、開店時間はだいたい正午近くになります。そこから売り切れるまでが営業時間。閉店はおおよそ午後5~7時あたりといったところでしょうか。
売り上げは店によって当然異なりますが、日中6~7時間くらい営業した場合、ざっと3千本ほどを売り切る感じです。単価は50チャットという安価ですが、完売すれば、1日の収入は悪くありません。
ただ実際にはそうはいかない日がしばしばあり、特に6月から約4カ月間の雨季は、露店にとっては辛い時期です。年によって異なりますが、この時期、特にヤンゴンは毎日のように雨が降ります。雨天休業などしていたら生活が成り立ちませんから、悪天候であっても朝から通常通り仕込みを行います。そしてよほどの豪雨でない限りはいつもの場所へ向かい、ビーチパラソル大の傘を立ててとにかく営業します。売れ残った分については、翌日まで持ち越すことはできませんから全て破棄。その分が減収となります。辛いところですが、雨天は天災。仕方ありません。
ただ最近は別の要因による減収に悩まされているようです。
2011年3月30日、ミャンマーでは軍事政権からテインセイン大統領が率いる新政府に政権が移譲されました。このあたりから、人々の生活環境も変化してきているようです。とりわけ電気事情は、著しく改善してきています。というのも、「計画停電」によって数時間おき、あるいは数日おきにしか電気が来ない、という状態が、少なくともヤンゴンにおいては(地区によって違いがあるかもしれないが)、ほとんどなくなりました。しかも、そうした変化が、地方都市にも及んでいるのです。料金値上げというおまけつきではありますが、以前の劣悪すぎる電気事情と比べたら、ある程度経済力のある層にとっては、とても大きな変化です。
とりわけヤンゴンでは、こうした変化と並行、あるいは先行するような形で、今までこの国にはほとんど存在しなかったようなものが、主に中心部でよく見られるようになってきています。例えば、目に付くところでは民営の現代的なガソリンスタンドです。数年前まで、一般庶民のほとんどは、軍が横流しする闇ガソリンを買うのが当たり前でしたから(現在こうしたことなくなった)、その変化の大きさに驚きます。またおしゃれな店や新しい大型スーパーマーケットも増えてきています。このように、それまでゆっくりだった変化がスピードを上げてきたのです。そしてそれと同時に、良し悪しは別として、若者の服装なども急速に変化してきています。
既に数年前から、ヤンゴンの街中では、ロンジーを着用しない若者が大勢を占めるようになっています。ただ大都市がいくら変化しても、地方へ行けば皆相変わらずのロンヂースタイル、というのが近年の状況でした。しかし、2011年あたりからは、地方においても若者は外出時にズボン、スカートの着用が当たり前。中にはミニスカート、ショートパンツ、さらにタンクトップといった出で立ちまで見受けられるようになっています。
ただ、こうした服装は確かにまだ少数派ではあります。しかし昨年あたりまでは「あり得なかった光景」が、現在は存在するようになったのです。
新政権は、文化や習慣に関して、国営テレビなどを通して伝統護持を呼びかけてはいるようです。しかし、外国帰りのビルマ人が増え、海外のライフスタイルが入り込み、国内にも外国さながらの便利で快適な店が増え、といった状況が進行する中で実施された雑誌(スポーツやファッション系)に対する事前検閲の廃止(2011年6月)は、変化を大きく後押ししたと言えます。
同時に、富裕層を中心とした若者ファッションの変化にとって、間違いなく大きな要因となっているのが、韓国ドラマの流行です。
アジア各国での韓流ブームはミャンマーでも例外ではなく、その過熱ぶりは相当なもの。放映時間になると老若男女を問わず家族中がテレビの前に集まってきます。今やまさに国民的娯楽。ビデオ(VCD)も販売されており、全巻買い揃えて繰り返し観るファンもいるくらい。そしてこの韓国ドラマに登場する韓流スターたちが、ミャンマーにおけるファッションリーダーとなっているのです。
こうした文化の変容は、その良し悪しは別として、外国人にとっては桃源郷のようなミャンマーが「普通の国」になりつつあることのあらわれと言っていいでしょう。そして、アウンサンスーチー氏の政治活動再開や政治犯の釈放といった政治面での大きな動きによって、社会の変化がさらに進行することは間違いありません。
そんな変化を、富裕層は概ね歓迎しています。しかしウェタードウットーなどの露店経営者の反応は違います。
雑誌の事前検閲廃止と同時期の2011年6月から、ヤンゴンにおいて露店の営業規制が始まったからです。対象は主に表通りで、営業時間が午後3時~午後7時という4時間のみに限定されたのです。ウェタードウットーは、従来6~7時間程度で完売していたものですから、この時間ではどんなに頑張っても同量を売り切ることはできません。路地裏での営業時間は融通が利くようなので、それで補ったとしても来客数の減少は避けられません。2~3割程度の減収はかなりの痛手だといいます。
ただ新政権に限らず、従来からこの種の規制は度々行われているので、今回もその一環で、いずれ緩和されるのかもしれません。あるいは、民主化の進展に伴って増加する外国からの企業進出や観光客に備えて、さらに強化される可能性もあるでしょう。2040年までにヤンゴンをシンガポール並みの近代都市に変える再開発計画の話も耳にします。そのあたりが不透明なだけに、とにかく露店経営者にとっては、新政権による一種の繁華街クリーンアップキャンペーンは、大きな不安要素となっているようです。