ビルマ・ポップス界の女王メースウィの来日公演が目黒区民センターで行われました。この国の女性ポップス歌謡は、メースウィ抜きに語ることは決してできません。幅広い歌唱力を備えたメースウィの歌声には、ビルマ・ポップスの魅力が凝縮されていると言っていいでしょう。
しかし、そんな彼女は現在アメリカ在住。彼女の穴を埋められるほどの女性歌手は、いまのところ本国のポップス界には存在しません。目下、本国で人気No1と言われる女性歌手にしても、その魅力を比較した場合、とりわけ歌唱力という点で言えば、まったく問題外。そういった意味でも、今回アメリカから来日するメースウィの公演は、ビルマ・ポップスの魅力を知る絶好の機会。アジア歌謡に関心のある方やビルマ好きならずとも一聴の価値があるでしょう。
ただ、今回の公演は、率直なところ「女王」にふさわしい環境では決してなかったと言っていいでしょう。日本での滞在期間はわずか1週間。なんと公演前日に日本へ到着。伝統歌謡とポップスの2部構成からなる公演の演奏は在日ビルマ人の楽団やロックバンドが担当するのですが、問題は彼らとメースウィとの事前の音合わせ。これをたった1日間で済まさなければならない。伝統歌謡の演奏を担当するミンガラード楽団とは公演前日に、ポップスを担当するロックバンドのBLACK ROSEとは当日の午前中に、それぞれ1回づつの練習とという急ごしらえ。普通の大物歌手ならば、怒り出してしまい、公演をキャンセルしてもおかしくないような日程。しかし、ビルマ人歌手の場合、どんなに大物でも海外公演が容易でない事を彼女は充分に承知しています。公演当日、バックの演奏をリードしながら歌い、ステージを作り上げていくメースウィ。満足できるものを観客たちに観せられないことのもどかしさを一番強く感じている彼女は、曲の合間に観客たちにその思いを語りました。1曲目から大いに盛り上がっていた観客たちは静まり、話に耳を傾けます。そしてメースウィは言いました。「でも私は、海外に住むビルマの人たちが私の歌を聞きたいという限り、どこへでも行き、歌を歌います。」彼女の海外公演にとって一番大切なことは、大物歌手に見合う待遇ではなく、自分の歌声で海外に住むビルマ人を元気づけ、和ませること。アメリカ在住となっても、メースウィの歌手としての姿勢は、ビルマ時代と変わりはありませんでした。
日本人から観れば、事情がわからないだけに、ややしまりのない公演と感じるかもしれません。伝え知るところでは、途中で「耐えられない」と言って席を立ってしまった日本人客もいたそうです(春田氏のHP『恋するアジア』の「つれづれ小腹立ち日記」の11月6日を参照)。しかし、大いに盛り上がっていた在日ビルマ人たちにとっては、「楽しい」だけではなく、国を離れ帰るに帰れない祖国への思いをつづった曲をエンディングとしたこの公演は、心に響く感動的なものでもあったようです。
日 時 | 2001年11月4日(日)17:00~20:30 |
会 場 | 目黒区民センター |
出 演 | [歌手] メースウィ [演奏] ピアノ演奏:サンダヤー・トゥンエーヌエ バンド演奏:BLACK ROSE |
入場料 | 3000円 |