新たな動き~新世代組織における女性の活躍

本国が軍政下におかれた1980年代末以来、在日ミャンマー人コミュニティ内には、数多くの組織が存在し、現在に至っています。ここでは、そのほんの一部について取り上げます。

■リトルヤンゴン第1・2期(1990年代~2008年頃)
在日ミャンマー人の組織は、長きに渡ってそのほとんどが民主化運動あるいは少数民族に関連するもので、1990年代より行われているコミュニティ内の最大行事ダヂャン(新年の水祭り)をはじめ少数民族のイベントなどは、そうした政治的あるいは民族的な組織が開催しています。

しかし2000年代の日本における共同宣言(超過滞在者摘発)と2011年以降の本国における民主化の動きにより、在日ミャンマー人の在留資格が大きく変わり、組織にも変化が生じてきています。コミュニティが全体的に留学生や社会人などの若者へと世代交代し始め、政治や民族にかかわる問題ではなく、親睦、交流、研修会、就職情報、自己研鑽などに主眼を置く組織が、新世代を中心に拡大してきています。

■リトルヤンゴン第3期における世代交代の進行
本国の民主化について課題はいまだあれど、劇的な変化を遂げた後の世代にとって最大の関心事のひとつは自分自身の更なる発展です。そこにSNSの圧倒的な浸透が相まって、facebookを使った組織作りが活発に行われています。

そうした動きによって結成された組織はいくつかありますが、現状において主だったものとしては、2011年設立のMYSA(在日ミャンマー青年学生協会)や2014年設立のMASBO(在日ミャンマー留学生&社会人組織)などを挙げることができます。共に留学生と社会人の組織ですが、それぞれの構成員にはやや違いがあります。社会人が比較的多いMYSAに対して、MASBOは7割ほどが留学生。また留学生はMYSAが国費や奨学金、MASBOが私費が中心です。

■女性主導の新世代組織
こうした新世代の組織には、女性が活動の中心という共通点を特徴として挙げることができます。いずれもSNSを活用しオンライン上で数千人規模のメンバーが参加していますが、その運営の部分では女性たちがリーダーシップを発揮しているのです。これは民主化によって女性の活躍の機会が拡大した、ということではありません。民主化前のビルマ式社会主義や軍政の時代から、ミャンマーでは女性の社会進出度が日本とは比較にならないほど高く、彼女たちは様々な場面でリーダーシップをとって活躍してきているからです。

こうした活動的な女性たちの積極性は、本国での就学時点においても顕著にみることができます。たとえば座席が自由な塾では、たいてい女生徒が前方の席を占めています。女子に優しいミャンマー男子としては、譲ってあげている、ということなのでしょうが、女子の意欲や力量が高さのあらわれでもあります。そうした面は、日本における新世代ミャンマー人組織の運営にもあらわれており、男性メンバーたちはリーダーシップをとっている女性メンバーたちのサポートに回り、またそれがとても良い関係の構築ともなっているようです。

■女性活躍の背景
ミャンマーでは、国家体制が社会主義であろうと、軍政であろうと、そして民主的政権であろうと、家庭における子育てが特段変わるわけではありません。もちろん一概には言い切れませんが、一般的に親の躾は女子に厳しい、という傾向がこの国にはあります。その結果、しっかり者で生活力のある女性が、さまざまな場面で活躍して社会を支えています。ただし、軍事と政治以外、ということ。よって新世代組織が政治とは距離を置いていることと女性主導の運営体制は、無関係でないと言えるかもしれません。ただそのあたりについては、例えば、シンガポールには非政治的な留学生や社会人の組織が男性主導で運営されている状況もあり、必ずしも一律に捉えることはできません。また日本での状況については、新世代ミャンマー人の男女比において女性が多いことも関係していると考えられます。特に組織の中核を担っている年齢層においては、各年齢で女性人口がすべて上回っています(※法務省統計)。

軍政時代まで、容易ではなかったミャンマー人の海外渡航ですが、とりわけ若い女性については「保護」を名目に規制をかけられることがしばしばありました。その種の規制のなくなった民主化後、女性の出国自体が自由化されたわけですが、女性保護の観点というのは、単なる名目ではなく、この国の価値観として存在しています。

たとえば、残念なことに日本には東南アジア女性に対してステレオタイプ的な見方があります。かつての日本におけるからゆきさんの逆パターン行為について、ミャンマーには、周辺諸国の中で突出して強く否定する倫理感が一般的に存在します。よってそうした観点からの規制は、単に軍政の政策というだけでなく、一般家庭における考え方にも合致するものです。ミャンマー社会における女性の活躍ぶりや強さを目の当たりにすると、一見矛盾するようですが、その根底にある対女性の価値観は「保護」です。ゆえに、ミャンマー男性は女性にとても優しく、この点で日本の男性は敵いません。そして、保護ゆえに家庭では厳しく躾けられ、その結果、しっかり者となった女性が社会で活躍する。そうしたことから日々の生活においては、日本よりはるかに男女平等で、それどころか職場によっては女性優位の場面もあります。しかし、あくまでも女性は保護すべき存在ですから、政治と軍事は男性が担うのです。現在アウンサンスーチー氏が政治的リーダーですが、彼女は独立の英雄アウンサン将軍の娘であり別格な存在で、一般化できない部分です。

こうしたことから、ミャンマーの親たちは、娘が海外で就職や留学をするならば、できるだけ安全な国が良いと考えます。若い世代の在日ミャンマー人において女性の比率が高いのは、こうした日本の安全性が関係していると考えられます。そして、新世代組織が女性主導で動いているのは、女性の比率の高さが大きな要因だろうという、きわめて単純な結論ですが、その背景にはこの国ならではの事情が存在するのです。

ただ、今年(2019年)4月からの改正入管法によって生じうる新たな状況の変化によっては、コミュニティ内でも何らかの動きがあるかもしれません。いずれにせよ、ミャンマーから来日する若者たちはますます増えることが見込まれます。そうした状況の中で新世代中心の組織が、ミャンマー人コミュニティにおいてさらに存在感を増していくことは間違いないでしょう。

■宗教組織
最後に宗教について触れておきます。どのような形であれ祖国を離れて暮らすミャンマー人にとって、心の支えとなっている宗教の存在は重要です。仏教やキリスト教などの組織は1990年代から存在していますが、とりわけ仏教関連の団体は、その規模や活動が徐々に活発なものとなってきています。

古くは九州の門司にある「世界平和パゴダ」がミャンマー僧を住職とする僧院として知られています。首都圏には、東京でのミャンマー人コミュニティ成立後、マンションの一室という小規模な形で、ミャンマー僧を住職とする僧院が中井、大塚、巣鴨などにありました。現在は、中板橋の「NPO法人ミャンマー文化福祉協会(MCWA)」や埼玉県東松山市にある「悟り寺」などが、信者たちにとってより集いやすい規模の僧院で活動をしています。そしてさらに、本国並みのパヤー(パゴダ)建立の計画も進行中です。

(2019年5月)

NLD解放地域・日本支部主催のダヂィンヂュッ(灯祭り)のスローガン「民主化活動は勝利するぞ」
カチン平和教会25周年記念祭(2017.07.16)
MYSA主催のダヂャン(2017年)